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一級建築士の憂鬱 プロローグ


日没後は小屋にこもってじっとしている。気が向けば笠を編んだりもするが、日中あれこれと動き回るのですぐに睡魔がやってくる。翌朝からの仕事のことを考えれば無理に起きているよりも素直に床につくほうがよい。ここに布団はない。枯葉や藁を厚く敷いた上に里から持ち込んだシーツを被せただけの簡易ベッドで眠る。
日の出少し前に目覚めて、囲炉裏の火が消えてしまっていたときなどは落胆する。が、同時に心躍るような気分になるのは、もう一度初めから(乾いた草を集めてくるところから)火起こしを堪能できるからである。
今朝は幸い火は無事だった。火力を調整してから小屋を出る。夜露に湿った土の匂い。朝餉は顔を洗いがてら川で摂ることにする。前日仕掛けた網に魚が掛かっているはずだ。しくじっていたら、そのときは歩きながら果実でももいで食べればよい。
リンゴと梨の合いの子みたいな瑞々しい薄紫色の実を頬張りながら山頂を目指す。霞み掛かった火影岩の向こうからはすでに太陽が現れて里全体を照らしている。

「僕がいなくても世界は回るのだ」

僕は今年、二十八歳になる。



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